山本七平賞特別賞を受賞した「ドイツリスク」に引き続いて本書を読んだ。
まず、「ドイツリスク」について。
さすがに同賞を受賞されるだけの優れたルポルタージュで、4年前の著作だがドイツのみならずヨーロッパ全体に現在までも尾を引く脱原発、ユーロや難民、ロシア・中国との関係などの大問題を、冷静なまなざしで、新書1冊に端的にまとめたもので、非常な興奮を覚えながら読んだ。
脱原発問題では日本の福島事故に関するドイツの「デタラメな報道」ぶりに唖然とし、中国問題では、自国のホロコーストという歴史的体験を投影して日本を観るドイツ知識人の心性の暗部が深く描かれている。ドイツには、経済面での「打算」を超えて、中国の主張に「共鳴する要素」があることが本質的な問題であることが示されていて、日本にとって深刻な問題であることがよくわかった。
また、ユーロ危機は経済問題だと思っていたが、ユーロ誕生の背景には、ナチズムやホロコーストというドイツの歴史の負の遺産の克服へ向けた「政治通貨」という側面があったことを知り、まったく意外で驚いた。経済の裏にある、こうした思想的問題まで書いてくれるのは嬉しい。
その統一通貨ユーロによって「一つのヨーロッパ」に向かっているかというと、むしろその逆で、「ドイツリスク」刊行の時点ですでに「共通通貨ユーロは統合を進めるどころか、ヨーロッパの分裂に力を貸している」(はじめに)という。
それはドイツの一人勝ちに対する怨嗟の声だけではなく、移民・難民、イスラム、歴史認識問題なども重なり、ドイツ内外で「反難民、反既成政党、反EUが常態化」しているという。その詳細を記したものが本書「本音化するヨーロッパ」で、著者にその意図があったかどうかはわからないが、本書は「ドイツリスク」の続編であると受け止めた。
「本音化するヨーロッパ」には全編に興味深い指摘がいくつもあって、ここに書き出したらきりがないが、圧巻は第二部「右傾化と分断 内在化する脅威」ではないだろうか。
そこには主に難民の同化、統合の問題と、右派政党勃興の背景が書かれている。どちらも日本にいては気づきにくく、実感も伴いにくいので、そこで起こっていることの解釈に悩む問題であるが、ドイツ駐在10年の経験と知見の上にこそ成り立つ新たな集中的取材で、現在の状況と、その意味するところを深く掘り下げ、説明してくれている。
非常に興味深い事例として印象に残るのは、ドイツが350万人もいるトルコ系を主な対象に、二重国籍を認めたことと、その後、それが意味のない施策であったのではないかということで、見直しの議論が強まっているということだ。つまり、トルコ国籍を捨てることに抵抗のあるトルコ系がドイツ社会に同化することを促すだろうという期待のもとに始まった施策であったが、「二重国籍がドイツ人意識を促進しないのならやめた方がいい」という議論が興っているということである。「多くのドイツ人にとって、トルコ系の多くがドイツの価値とは異質の世界に生きている事実を、改めて突きつけられた」というのである。
取材した市井の人の「ドイツ人になろう、という人がドイツに住むべきだ」という言葉は、普通の人の意識を代表している発言であろう。多文化社会が豊かな成果を生み出す象徴との見方があったが、「ドイツの現実は、そんなに単純ではない」ということになるようだ。
そのほかにも、言語習得や職業選択の問題などなど、これから日本も直面することになりそうな様々な問題について、具体的な、しかもけっして特殊ではない事例で紹介してくれる。「2~3割の人口が外国人になったときの社会が抱える緊張や分極化について、多文化共生を称揚する日本人の多くは考えが及ばない」という著者の指摘はまったくその通りであると思う。
「それは簡単なプロセスではないことは、トルコ系移民の前例が示している。この問題だけで、ゆうに1冊の本になるが・・」と著者は言うが、ぜひその「1冊の本」を書いていただきたいと思う。
最後に、順序が逆になってしまったが、日本のマスコミ報道で違和感を感じてきた”極右”や”ポピュリズム”という用語についての著者の注釈が重要なので紹介したい。
「20~30%の国民の支持を得て、中には政権に加わっている国も出てきた。・・・最右翼という意味で”極右”と呼ぶ意味はあるが、”極端”という意味ではもはや妥当しない」と著者は言う。
日本のマスコミは”極右”の人たちが気に入らないようで、未だに”極端な右派”という意味で使っているようだ。マスコミにはあえてそのように使う政治的意図があるのだろうが、しかし、それでは西洋の実態がわからない。
同様に”ポピュリズム”についても、著者は「この用語は、右派思想や右派政党に対する否定的なニュアンスに重なるところがあり、あまり中立的な言葉とは言えない」と指摘する。そして「左右のポピュリズム政党に通底する特色とは、反グローバリズム、反エリート、反既成政党・メディア、そして比重が大きいのが反EUの立場である」と。
こうした指摘は、日本のメディアでは聞かない。これらの指摘は重要で、これが序章に書かれていることによって、ジャーナリストとしての著者の中立性を感じる。ちなみに前著もそうだったが、全般的な記述として、著者は自身の考えの表明についてはかなり抑制的で、結論は読者にゆだねているように感じる。事実にもとづいて、自分で考えることができる本として広くお勧めできる本である。
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本音化するヨーロッパ 裏切られた統合の理想 (幻冬舎新書) 新書 – 2018/9/27
三好 範英
(著)
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アフリカからの難民をイタリアが堂々と受け入れ拒否し、EU内では政権参加するポピュリズム政党が増加、ロシアの軍事的脅威には徴兵制復活の動きで対抗する……。ギリシャの共通通貨ユーロ離脱は一応回避し、外からは一見、落ち着きを取り戻したかのように思える欧州。だが、エリートたちが懸命に目指そうとする理想とは裏腹に、普通の人々の生活レベルでの不満は鬱積し、むしろ深化していた――。9年半のベルリン特派員経験を持つ著者が、緊張の現場を丹念に取材。米・英に続く、ヨーロッパの「本音化」というべき現象が、EUの協調を崩し、世界の衝突の震源地となる!
- 本の長さ254ページ
- 言語日本語
- 出版社幻冬舎
- 発売日2018/9/27
- 寸法17.3 x 10.8 x 1.2 cm
- ISBN-104344985192
- ISBN-13978-4344985193
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商品の説明
著者について
一九五九年東京都生まれ。東京大学教養学部相関社会科学分科卒。八二年、読売新聞入社。九〇~九三年、バンコク、プノンペン特派員。九七~二〇〇一年、〇六~〇八年、〇九~一三年、ベルリン特派員。現在、編集委員。著書に『特派員報告カンボジアPKO 地域紛争解決と国連』『戦後の「タブー」を清算するドイツ』(ともに亜紀書房)、『蘇る「国家」と「歴史」 ポスト冷戦20年の欧州』(芙蓉書房出版)、『メルケルと右傾化するドイツ』(光文社新書)。『ドイツリスク 「夢見る政治」が引き起こす混乱』(光文社新書)で第25回山本七平賞特別賞を受賞。
登録情報
- 出版社 : 幻冬舎 (2018/9/27)
- 発売日 : 2018/9/27
- 言語 : 日本語
- 新書 : 254ページ
- ISBN-10 : 4344985192
- ISBN-13 : 978-4344985193
- 寸法 : 17.3 x 10.8 x 1.2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 568,304位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2018年12月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
右傾化するヨーロッパに違和感を持っていましたが、幾分理解できました。
2018年11月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
「本音化」という割に、政府筋とか、団体の人の話を聞いてまとめましたみたいなところは、本当のルポルタージュではないなと感じた。本書は2017年の9月にたった3週間でヨーロッパの各地をまわって行った取材が元になっている。この短時間で、広大な地をまわると言うことでは、さもありなん。
ヨーロッパの統合という壮大な実験、その途上でいま、統合の理想が危機を迎えている。外からの難民、南北の経済バランスが崩れていること、東西冷戦構造が壊れて、ロシアが新たな脅威となりつつある。特に難民問題は深刻化している。EU内の国々のエゴがぶつかり合っている。その実情を解説したのが本書。
しかし、難民問題は、そもそもはヨーロッパ・先進国の植民地政策の破綻に対する無責任さと、経済のグローバル化の中での新たな搾取問題が根源だろう。
本来は、移民になどなりたくない人たちの問題を解決することで一丸とならなければならないはず。
ヨーロッパの統合という壮大な実験、その途上でいま、統合の理想が危機を迎えている。外からの難民、南北の経済バランスが崩れていること、東西冷戦構造が壊れて、ロシアが新たな脅威となりつつある。特に難民問題は深刻化している。EU内の国々のエゴがぶつかり合っている。その実情を解説したのが本書。
しかし、難民問題は、そもそもはヨーロッパ・先進国の植民地政策の破綻に対する無責任さと、経済のグローバル化の中での新たな搾取問題が根源だろう。
本来は、移民になどなりたくない人たちの問題を解決することで一丸とならなければならないはず。
2018年10月13日に日本でレビュー済み
「ロシアは出て行け!」「ギリシャへの援助反対!」「難民をぶっ殺せ!」欧州人のそんな過激な「本音」のオンパレードかと思いきや、さにあらず。そんな草の根の本音を十分にくみ取りつつ、内外の危機に冷静に対処する各部門に取材した、良質なルポルタージュです。
読売新聞編集員の著者によれば、現在の欧州はまことに内憂外患の日々。内にEUの動揺と極右の躍進、外からは難民の流入とロシアの脅威がある。それらの問題に取り組む機関や民間団体として本書に挙げられているのは、
トルコの海を渡ってくる難民船を監視するFRONTEX(欧州国境沿岸警備機関)。
ロシアの軍事介入に警戒を怠らないリトアニアの準軍事組織「リトアニア・ライフル銃兵同盟」。
1日に150人の難民をさばくこともあるドイツの「連邦移民・難民庁」。
昨年のドイツ連邦議会総選挙で躍進し「ドイツ国内で最も強い支持を得た」政党である「ドイツのための選択肢(AfD)」など。
目の前の諸問題に淡々と、しかし真摯に取り組む彼らの姿には尊敬を念を抱きながらも、正直意外な感もおぼえます。著者によればアフリカの潜在的難民予備軍は再来年には1500万になり、とうてい各機関の地道な取り組みでどうなるものではないからです。
移民難民をドイツに同化させる各種プログラムの効果も「常識的に考えて疑わしい」「移民・難民は出身国との関係を保つ傾向が強まっている。多くの難民が、結局は自分の生きる集団の価値とは異質な価値の受け入れを拒否するだろう」とのこと。
インタビューで「シリアに未来はないと思う」と断言するシリア難民の女性は欧州での永住を望むが「労働許可を得られたのは200人中、最大でも10人」(難民仮宿泊所の事務局長)という就労の難しさ。欧州に来ればなんとかなると思ったアフリカ人たちには厳しい現実が待っているのです。
かたや移民排斥を主張するAfDの幹部は「イスラム教は全体主義のイデオロギーだ。私はイスラム嫌いではない。自由な社会を守りたいだけだ。」と至極まっとう。議席を伸ばすのもむべなるかなという感じです。ちなみに、ドイツのマスコミも日本同様リベラル寄りで反対派による彼らへの妨害行為には寛容とのこと。「反ナチのためには時に法秩序を軽視してもかまわない、という戦後ドイツの傾向は、『反日無罪』をもじって言えば、『反ナチ無罪』とでも呼べるものだ。」と著者もそのダブスタぶりを皮肉っています。
本書の後半でイギリスのジャーナリストが示す「ヨーロッパ文明そのものに関する悲観論」には日本の今後を考えさせられました。「労働力不足を補うための移民の導入だったが、その移動を止めることができなくなった」「結局そうした社会は機能しないというのが、難民危機後の結論」「ヨーロッパ人は過去の罪(植民地支配や両大戦)にとらわれており、自分自身に自信が持てないという存在論的、文明的疲労に陥っている。」
移民や難民に対し真摯に向き合う現場の欧州人に敬意を抱きながらも「我々が知っている西側世界はもはや存在しない」(シュピーゲル誌)とまで書かれる欧州の危機は、外国人就労者を大量に受け入れようとしているわが国にとって多くの示唆に富んでいます。
「日本は知恵を絞って、ヨーロッパの轍を踏まないようにしたいものである。」(あとがき)
読売新聞編集員の著者によれば、現在の欧州はまことに内憂外患の日々。内にEUの動揺と極右の躍進、外からは難民の流入とロシアの脅威がある。それらの問題に取り組む機関や民間団体として本書に挙げられているのは、
トルコの海を渡ってくる難民船を監視するFRONTEX(欧州国境沿岸警備機関)。
ロシアの軍事介入に警戒を怠らないリトアニアの準軍事組織「リトアニア・ライフル銃兵同盟」。
1日に150人の難民をさばくこともあるドイツの「連邦移民・難民庁」。
昨年のドイツ連邦議会総選挙で躍進し「ドイツ国内で最も強い支持を得た」政党である「ドイツのための選択肢(AfD)」など。
目の前の諸問題に淡々と、しかし真摯に取り組む彼らの姿には尊敬を念を抱きながらも、正直意外な感もおぼえます。著者によればアフリカの潜在的難民予備軍は再来年には1500万になり、とうてい各機関の地道な取り組みでどうなるものではないからです。
移民難民をドイツに同化させる各種プログラムの効果も「常識的に考えて疑わしい」「移民・難民は出身国との関係を保つ傾向が強まっている。多くの難民が、結局は自分の生きる集団の価値とは異質な価値の受け入れを拒否するだろう」とのこと。
インタビューで「シリアに未来はないと思う」と断言するシリア難民の女性は欧州での永住を望むが「労働許可を得られたのは200人中、最大でも10人」(難民仮宿泊所の事務局長)という就労の難しさ。欧州に来ればなんとかなると思ったアフリカ人たちには厳しい現実が待っているのです。
かたや移民排斥を主張するAfDの幹部は「イスラム教は全体主義のイデオロギーだ。私はイスラム嫌いではない。自由な社会を守りたいだけだ。」と至極まっとう。議席を伸ばすのもむべなるかなという感じです。ちなみに、ドイツのマスコミも日本同様リベラル寄りで反対派による彼らへの妨害行為には寛容とのこと。「反ナチのためには時に法秩序を軽視してもかまわない、という戦後ドイツの傾向は、『反日無罪』をもじって言えば、『反ナチ無罪』とでも呼べるものだ。」と著者もそのダブスタぶりを皮肉っています。
本書の後半でイギリスのジャーナリストが示す「ヨーロッパ文明そのものに関する悲観論」には日本の今後を考えさせられました。「労働力不足を補うための移民の導入だったが、その移動を止めることができなくなった」「結局そうした社会は機能しないというのが、難民危機後の結論」「ヨーロッパ人は過去の罪(植民地支配や両大戦)にとらわれており、自分自身に自信が持てないという存在論的、文明的疲労に陥っている。」
移民や難民に対し真摯に向き合う現場の欧州人に敬意を抱きながらも「我々が知っている西側世界はもはや存在しない」(シュピーゲル誌)とまで書かれる欧州の危機は、外国人就労者を大量に受け入れようとしているわが国にとって多くの示唆に富んでいます。
「日本は知恵を絞って、ヨーロッパの轍を踏まないようにしたいものである。」(あとがき)
2023年3月11日に日本でレビュー済み
ドイツのみならず、ヨーロッパ全体を俯瞰されたジャーナリスト・新聞記者による現代ヨーロッパ素描
気付きはこんなところ:
他国の侵略によって独立が失われた国とは安全保障に関する皮膚感覚が違う。
起こると言って準備して間違いであると分かった方が、起こらないだろうと言って実際に起こることより良い。
(ドイツのリトアニア駐屯について)戦闘に参加する可能性が低いため世論の反発は少ない。
ドイツのメディアも左による右に対する攻撃には寛容:反ナチ無罪の傾向あり
独立後のリトアニアでは、外国語能力の差が開き、能力の差が直接収入の差に!
気付きはこんなところ:
他国の侵略によって独立が失われた国とは安全保障に関する皮膚感覚が違う。
起こると言って準備して間違いであると分かった方が、起こらないだろうと言って実際に起こることより良い。
(ドイツのリトアニア駐屯について)戦闘に参加する可能性が低いため世論の反発は少ない。
ドイツのメディアも左による右に対する攻撃には寛容:反ナチ無罪の傾向あり
独立後のリトアニアでは、外国語能力の差が開き、能力の差が直接収入の差に!
2021年2月26日に日本でレビュー済み
1997年から2013年にかけて、読売新聞のベルリン特派員だった著者が、2017年9月に、ギリシャ、リトアニア、ドイツを回って、アフリカやシリアからの難民問題、ギリシャの経済破綻、ロシアの圧力などを取材した記録。ヨーロッパの統合という理想を追いかけたEUの状況のリポート。理想を追う政治と、社会の混乱、市民の生活実感との乖離、その結果としての、各国政治の右傾化を市民の本音とらえている。それを良い悪いだけで議論できるのか、日本に同様の問題が生じらたどうすればよいのかなどなど、いろいろと考えさせられる内容である。
2018年10月14日に日本でレビュー済み
ヨーロッパでは「ポピュリズム」の台頭が指摘されて久しいが、本書はその実相を「本音化」という言葉で説明する。日本のマスコミでは「大衆を扇動する極右勢力」といった描写がなされるものの、それは一方的な見方であることをこの本は示す。
本書は読売新聞ベルリン特派員を務めた著者によるルポルタージュで構成される。第1部「難民とロシア 二つの最前線」と第2部「右傾化と分断 内在化する脅威」の二部からなる。ギリシャ、リトアニア、ハンガリー、そしてドイツでの丁寧な取材が著述にリアリティを与えている。
ロシアの脅威に直面するリトアニアに関する記述も興味深いが、本書の読みどころはヨーロッパが経験している難民・移民危機に関する箇所だろう。著者が示すように、人の移動がもたらす危機は「過ぎ去らない危機」(序章)である。今後もヨーロッパを苛め続けていくと思われる。ドイツの難民支援の現場を取材する過程で著者は「役所の異国化」(112頁)を目の当たりにする。危機はテロや犯罪のように突発的に起きる事象に限らない。ミクロの世界の緩やかな変化とともに「一つの文明が別の文明に変質していくこと」(112頁)こそが真の危機なのである。
「ポピュリズム」や「排外主義」と形容される人々の行動の本質は何か。それは流入する異文化から、自らの歴史や文化、アイデンティティを守ろうとする草の根の防御反応ではなかろうか。「建前だけの政治は、かえって多くの人を不幸にするという普通の人々の現実的な判断」(21頁)であり、危機を直視しないエリート層に対する市井の人々の異議申し立てと言ってもよい。
本書は現代ヨーロッパの苦難と苦悩を鮮やかに描写する。日本政府が移民導入に舵を切った今、「ヨーロッパの轍を踏まないように」(254頁)という著者の警鐘は重く響く。
本書は読売新聞ベルリン特派員を務めた著者によるルポルタージュで構成される。第1部「難民とロシア 二つの最前線」と第2部「右傾化と分断 内在化する脅威」の二部からなる。ギリシャ、リトアニア、ハンガリー、そしてドイツでの丁寧な取材が著述にリアリティを与えている。
ロシアの脅威に直面するリトアニアに関する記述も興味深いが、本書の読みどころはヨーロッパが経験している難民・移民危機に関する箇所だろう。著者が示すように、人の移動がもたらす危機は「過ぎ去らない危機」(序章)である。今後もヨーロッパを苛め続けていくと思われる。ドイツの難民支援の現場を取材する過程で著者は「役所の異国化」(112頁)を目の当たりにする。危機はテロや犯罪のように突発的に起きる事象に限らない。ミクロの世界の緩やかな変化とともに「一つの文明が別の文明に変質していくこと」(112頁)こそが真の危機なのである。
「ポピュリズム」や「排外主義」と形容される人々の行動の本質は何か。それは流入する異文化から、自らの歴史や文化、アイデンティティを守ろうとする草の根の防御反応ではなかろうか。「建前だけの政治は、かえって多くの人を不幸にするという普通の人々の現実的な判断」(21頁)であり、危機を直視しないエリート層に対する市井の人々の異議申し立てと言ってもよい。
本書は現代ヨーロッパの苦難と苦悩を鮮やかに描写する。日本政府が移民導入に舵を切った今、「ヨーロッパの轍を踏まないように」(254頁)という著者の警鐘は重く響く。